JUNKAN Museum 循環ミュージアム
クリエイターが描く「循環」
多様な視点、思想、表現から見つめる「循環」は、こんなにおもしろい!
茅葺き職人
相良育弥
7/11
茅葺き職人が作るアートワーク。
100年前から受け継ぎ、100年先までつなぐ大きな循環の輪
茅葺きの世界に入るまでは、伝統的な日本文化に詳しいわけではなく、どこにでもいる普通の青年でした。田舎で生まれ育って農業が身近だったので、お百姓さん、つまり農家になろうとしていました。 「百姓」の由来には多くの説がありますが、「具体的に生きていくための100の技を持つ人」という解釈を本で読んで、僕はそれを支持していました。そんな時に、お試しで入っていた茅葺きのアルバイト先の親方と話していて、「茅葺きにはその100の技のうち10くらいある。やってみたらどうや ?」と誘われたんです。その言葉で、茅葺きは自分が目指す『百姓』の延長線上にあるのだと気がついたのです。現在は茅葺き職人として、神戸市北区淡河町を拠点に、茅葺き屋根の葺き替えや修復を行っています。他にも店舗や什器など、茅葺きというマテリアルや技術を現代の建築やプロダクトに落とし込み、表現する仕事をしています。
アートワークを作りはじめたのは、2、3年前ごろ。とある華道家の方に「こんなイメージで生けるものがほしいから茅葺きで作ってほしい」という相談を受けて作ってみたことがきっかけでした。この作品は、藁で作った花の背景として使う壁掛けのアートワークです。茅葺きの屋根と同じで、藁を集め、鋏で滑らかな面になるようにカットしています。近くで見ると、多孔質な藁の質感と、段差をつけて刈り込むことで生まれる陰影が楽しめます。日々の作業では、自分の体よりはるかに大きな屋根と向き合っているので、室内で鑑賞するアート作品を作る上では、スケールの違いに戸惑ったりもしましたね。小さめの鋏を使い、屋根よりも密度を上げて細かい仕上げにしています。
職人を志して、今に至るまで続けられているのは、茅葺きが“生まれた瞬間から還る場所が約束されている”からでしょうか。そもそも茅葺屋根は、20〜30年周期で手入れや葺き替えをして後世につないでいくもの。材料になるススキや稲藁などは収穫してストックしておきます。交換した古い茅は田畑に撒かれて肥料になります。たとえ人が住まなくなってしまったとしても、最終的に解体すれば、木と土と竹と草、もとのマテリアルに戻る。理にかなった循環システムを備えた、ごみにならない建築様式なんです。すごく無駄がなく、美しい。あと、解きやすいから、直しやすいという利点もあります。災害が多い日本だからこその考え方ですよね。
今世の中で注目されている「循環」というキーワードですが、どのような円を描くのかが大切ではないでしょうか。「とりあえずぐるっと回ってればいいでしょ」ではなく、きれいな輪がいかに描けるか。循環の質にも意識を向けてほしいのです。そして机上で循環を語るのではなく、自然をよく観察して、実際に体を動かしてみてください。循環させることがいかに大変で、時間がかかることかを実感できるはずです。自然の持つ生成力と回復力を理解した上で、生産量を逆算して考える。自制心というと堅いですが、その見極めも重要です。
循環の本質を捉える上で、「自分の人生のスケールを超えているかどうか」も一つの指標になると思います。僕らの仕事も、前後100年を巻き込むような円を常に描こうとしている。親から受け継ぎ、子や孫の代へと継承していく茅葺屋根。そして職人も、自分の修行が終わって一人前ではなく、弟子ができて自分の技術を次の世代に伝えてからようやく一人前なんです。「先人がやり残したこと」と「100年後の人が望むであろうもの」を学び、想像して、今の僕らに何ができるか。受け継いだことをどのように未来に繋いでいくか、考えていきたいんです。
写真:坂口愛弥

1980年生まれ。株式会社くさかんむり代表。 茅葺き職人。神戸市内の茅葺屋根の修繕や葺き替えのほか、現代的な茅葺きへの挑戦、多くの人に茅葺きを知ってもらうためのワークショップやセミナーなどを開催している。