JUNKAN Museum 循環ミュージアム

クリエイターが描く「循環」
多様な視点、思想、表現から見つめる「循環」は、こんなにおもしろい!

写真家

白石 晋一朗

4/11

写真集『Samsara(サムサラ)』の表紙の写真。表紙は白く、部分的に光沢を帯びたグラフィックが施されている。上部と下部にそれぞれ2つずつ、冊子を貫通する小さな穴が空けられている。写真集はすべてモノクロームで撮影されている。
『Samsara』の見開きの写真。左ページにはモノクロームの写真、右ページには英語の文章が書かれている写真集の1ページ。デレク・ジャーマンが晩年を過ごした庭の写真と文章。
『Samsara』の見開きの写真。奥には家があり、手前には金属でできた四角い大きな箱のようなものが写っている。
写真集に収録されている2枚の写真。左:敷き詰められた貝殻。 右:地面に置かれた工業製品のオブジェ。奥には海が広がっている。
写真集に収録されている2枚の写真。左:杭と杭を囲っている鎖を上から撮影。 右:写真は遠くから撮影したデレク・ジャーマンの家。中央の境界線によりモノクロの世界が反転している。

自然と人工が溶け合う地点から、輪廻転生を写し出す

写真集『Samsara(サムサラ)』は、2020年に訪れた「デレク・ジャーマンの庭」で撮影した作品です。イギリスの南東部・ダンジェネスという村に、映画監督や舞台監督として活躍し園芸家としての顔ももつデレク・ジャーマンが、晩年を過ごした家と庭があります。

ダンジェネスで印象的だったのは、自然物と人工物の境界があいまいに溶け合っていたことです。敷地内には、工業製品の廃棄パーツと自然物が組み合わさったオブジェが点在していて、奇妙でありながら深く納得してしまうような小さな箱庭が形作られています。それを見て、僕自身の自然に対する捉え方がそのまま反映されているように感じたんです。

人それぞれ異なった自然観を持っていると思いますが、自分にとっての自然観は、雄大なランドスケープではなく、田園に電信柱が並んでいたり、高速道路のコンクリートの柱が池の中に立っていたり。祖父母の家がある田舎での、人工と自然が入り混じった風景なんです。

また、自然物と人工物の対比だけでなく、生と死、意識と無意識、未来と過去──さまざまな対になるものが全て溶け合い、時間の感覚が覆るような不思議な感覚を覚えました。その感覚を一冊の写真集で視覚化することを試みています。

写真は、ダンジェネスで感じた感覚が視覚的にその光景の中のどの要因から来ているかをあぶり出すためにモノクロームで撮影しています。フィルムで撮った写真に、後からデジタル上でソラリゼーションという技法を付加し、1枚の中にポジ(生)とネガ(死)を共存させています。写真に関しては、自分のなかでフィルム=熱、デジタル=技法、みたいな区別があって。フィルムでは特に愛しい対象を撮りたくなります。だから今回も、撮影はフィルムを選択しました。不思議とスキャンによってデータ化されても、フィルムがもつ熱は消えないと思っています。

タイトル『Samsara』は、サンスクリット語で「輪廻転生」という意味です。風景から感じた、生きているけど同時に死を感じる感覚。生と死の循環を暗示させるため、白のブランクページ(生)と写真のページ(死)を繰り返すページ構成にしました。またこの本には、多くの円形が登場します。本の4箇所に空けた小さな穴も、ポストカードのモチーフになっている、海岸で拾い集めた丸穴の開いた石も、輪廻転生の世界観を表現しています。

二度と同じ地点に戻ってくることがないのが、循環。X、Y、Zのようなあらゆる軸で、時間という概念を超越しながら巡っていくものだと思っています。均一な無限空間の中で、ぐるぐるとループしているイメージがあります。二次元で見ると円だけど、三次元で見ると渦だった、みたいな。ダンジェネスという場所から受け取った感覚も、その循環イメージと強く結びついています。

白石 晋一朗さんの写真
写真家

白石 晋一朗

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