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地球の循環を支える
水の不思議について

Index

  1. 水は太古の昔から、地球上で循環し続けている

  2. 氷が水に浮くのは、当たり前じゃない

  3. 水はさまざまなものを含有できる

  4. そういえば、これも水溶液

  5. 水の循環に責任を持つ

  6. 「水が大量に存在し続ける」という奇跡

  7. 「持続可能性が高い水」を求めて

地中から空中まであらゆる場所を巡りながら、地球の循環を支えている「水」。私たちの暮らしの中に当たり前のように存在し、飲んだり使ったりしている「水」。水なくして私たちは存在しえず、水を活用し、水と共に生きるということは、人類にとって大きなテーマのひとつです。
この記事では、そんな水のさまざまな「不思議」について触れていきます。毎日当たり前に目にしている水の認識が、少しだけ変わるかもしれません。

水は太古の昔から、地球上で循環し続けている

水は蒸発して「雲」を形づくり、「雨」となって地上へ降り注ぎ、地下水や湧水、川や湖沼などさまざまなルートに分かれながら、最終的には「海」に辿り着きます。そして再び蒸発し水蒸気となる。これが基本的な水の循環です。地球上の水は状態を変えながら常に大きく循環していて、その総量はほぼ一定。つまり、今ここにある水、蛇口をひねって出てくる水は、「地球上にはるか昔から存在し続ける水が変化と移動を繰り返してきた末の姿である」。そんなふうに捉えることもできるのです。

氷が水に浮くのは、当たり前じゃない

氷の入ったコップに水を注ぐ。すると氷は当然のように浮きます。実はこの現象は非常に珍しいもの。一般的に物質は冷えると体積が小さくなり、温まると体積が大きくなる性質を持っています。液体が冷やされて固体に変わると体積が小さくなって密度が高く、比重が大きくなる。けれど水はその逆で、密度が低く比重が小さく、そのために氷は水に浮くのです。もしも氷が水に沈んでしまったら、海や湖は氷で埋まり水の循環は止まり、地球は「水の惑星」ならぬ「氷の惑星」になっていたかもしれません。

水はさまざまなものを含有できる

「多くのものが溶け込む」ことも水の特性のひとつです。地球上の表面の5分の4は海で占められていて、その組成の大半は水ですが、他の成分として地球上にあるほぼすべての元素が溶けているといわれています。ナトリウム、塩素、マグネシウム。そして、金属や有機化合物、ガス……。これらは非常に微量ですが、水がさまざまなものを含有する性質を持っているからこそ。「海は万物の母である」という言葉にも説得力があるように思えませんか。

そういえば、これも水溶液

かつてヨーロッパの都市の多くでは、水よりも酒のほうが日常的に飲まれていたといいます。酒はアルコールの水溶液であり、「水の中に何が溶けているか」で酒の風味は決まります。例えばウイスキー。無色透明の原酒が樽の中で長期間熟成するうちに、樽材から成分が溶け出し、琥珀色へと色づき、芳醇な味と香りが加わります。アルコール濃度と香りを高めるために行われる「蒸留」というプロセスは、液体の水が加熱されると水蒸気に変わり、冷却されると再び液体に戻るという性質を利用しています。ウイスキーの複雑な味わいは、水の性質を活かして生み出されたものといえるでしょう。

水の循環に責任を持つ

水の特性を利用するウイスキーの生産には、良質な水の確保が欠かせません。本記事の映像を撮影した山梨県北杜市には、サントリーの白州蒸溜所があります。「シングルモルトウイスキー 白州」をはじめそこで生まれるウイスキーには、多様な生物が生きる周囲の森の地下深くで育まれた、ほどよいミネラルを含む地下水が活かされています。ただし、汲み上げているだけでは、いつかこの水がかれてしまうかもしれません。どうすれば、この地下水の循環を維持していけるのか──。
同社は「サントリー 天然水の森」と名付けた活動を会社の基幹事業と位置づけ、国内工場で用いる地下水の水源となっている森で、植林や生物多様性の保全・再生活動を行っています。地下水の量や流れの可視化などにも積極的に取り組んでおり、この活動を通じて、国内工場で汲み上げた地下水の2倍以上の水を育んでいる、といいます。50年、100年先を見据えて、「水の循環」を守っていく。これは、これからの時代の企業活動にとって、ますます大事なテーマとなっていくことでしょう。

「水が大量に存在し続ける」という奇跡

少し視点を上げて、宇宙に目を向けてみましょう。これまでの研究調査で、地球以外の惑星にも、水が存在したことがわかっています。例えば、火星地表の研究観察によって、火星には過去に大量の水が存在したことを示す多くの痕跡が見つかっています。火星に実際に降り立った惑星探査機も、そうした水の痕跡を確認していますし、火星から地球に飛来した隕石には、水がなければ存在しえない「粘土鉱物」という物質が含まれていたのです。一方、金星でも、大気の組成を分析した結果、大量の水蒸気が大気を覆っていることがわかっています。

しかし、地球のように、今も表面に大量の液体の水をたたえた惑星は、他には知られていません。金星では地表の温度が高いため水はすぐ蒸発してしまいます。逆に火星は温度が低すぎ、重力も地球より小さいので、液体の水は地表から失われてしまったようです。つまり、大量の液体の水を保持するための諸条件が奇跡的に満たされたことによって、地球には広大な海がもたらされたのです。

「持続可能性が高い水」を求めて

この記事の冒頭、地球上の水の量はほぼ一定と書きましたが、国土交通省のHPによると、地球全体の水のうちで人が採取して利用可能な「淡水」は、わずか0.01%ほどに過ぎません。しかも、さまざまな要因によって、その限られた水が汚染されてしまうことも少なくありません。私たちがいのちをつないでいくためには、淡水が絶対的に必要です。しかし淡水は世界的にみても「稀少資源」です。そのため、「持続可能性が高い淡水」の模索が世界中ではじまっており、新たなテクノロジーを生み出す企業も出てきています。例えば、空気中の水蒸気から水を取り出す技術や、膜によるろ過技術を高度化して海水から水を取り出す技術は、「持続可能性が高い淡水」の供給の可能性を拡げています。

日本企業も負けていません。水処理システムの提供に力を入れている栗田工業は、宇宙空間で活用できる「次世代水再生実証システム」の開発に着手しています。これは国際宇宙ステーションにおいて、尿を回収して飲料水として用いられるレベルにまで浄化する技術です。すでに宇宙での実証実験もクリアし、将来の有人宇宙飛行での活用を視野にいれています。人類が宇宙に挑戦するにあたっても、「水の循環」が重要なテーマとなっていくのです。

水は人類にとって身近で、必要不可欠なもの。だからこそ、その性質を知り、さまざまな形で「水の循環」を支え、未来へつなげていくことは、私たち人類全体の持続可能性を高める上で、ますます優先順位の高い重大テーマになっていくことは間違いありません。

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水なしに地球の循環はありえない。
意外と知らないその特質を紹介。
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