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微生物が作り出す造形美。〈Dress the Food〉KAORUさんの、発酵食美術館へようこそ
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「発酵食品の印象は ?」と聞かれたら、なんと答えますか。健康に良い、うまみがある、調味料が多い……。では、ビジュアルに関してはどうでしょう。普段は味や香りに注目しがちな発酵食品を、まじまじと観察してみると、そこには微生物の働きによる、美しい世界が広がっていました。
納豆、甘酒、鰹節。食べもののエネルギッシュな美しさをビジュアルで引き出すフードディレクターのKAORUさんの写真とキャプションから、身近な発酵食品3種の造形美を覗いてみましょう。
発酵食品ならではの美しさや生命力にあふれる、発酵食美術館へ、ようこそ。食べるだけでは伝わらない魅力を、ぜひ感じてみてください。
納豆─結束と躍動
日本の発酵食品の代表格、納豆。その起源は、平安時代後期に八幡太郎義家(源義家)が争いを収めるために移動していた際に、馬に積んでいた煮豆が俵に入っていたために発酵してできたなど諸説ありますが、いずれの説においても、わらに棲む納豆菌と、煮豆の偶然の出会いがきっかけであるといわれています。
納豆菌はわらの中のみならず、上空3,000mでも発見されたことがあるほど、どこにでも存在し、そして生き延びる強さを持つ菌。そして、血栓(血のかたまり)を溶かすナットウキナーゼという酵素を作り出す働きなどが代表的な、私たちの健康を支えてくれる菌なのです。
納豆には、糸引き納豆、ひきわり納豆、五斗納豆、寺納豆の4種類が存在します(※)。そのうち、作る過程で納豆菌を使わない寺納豆以外の3種類を、KAORUさんは観察しました。そこには、豆同士の “付かず離れず” な関係性がありました。
甘酒─米の七変化
甘酒には、米麹(※)を使ったものと酒粕を使ったものの2種類があります。麹甘酒は米+米麹+水、酒粕甘酒は酒粕+砂糖+水、いずれもシンプルな組み合わせでできています。
KAORUさんが選んだのは、非加熱で造ることで麹の酵母が生きている麹甘酒と、酒粕甘酒の原料となる、日本酒から出た酒粕。
米から米麹へ、そして麹甘酒へ。米から酒へ、そして酒粕甘酒へ。日本人のソウルフードともいえる米は、幾度となく姿を変え、自然の甘みが引き立つ液体になるのです。
鰹節─肉か樹皮か
鰹節の「節」とは、鰹をおろした身のひとつを指します。そしてそれらを煮て、何度も焙乾(いぶし・乾燥)を行うのです。その後登場するのが、鰹節カビ。鰹は動物性なのにもかかわらず、なぜ出汁には脂が浮かないのでしょうか ? それも、カビのおかげ。鰹節カビは脂質を分解するのです。それだけでなく、カビは水分をゆっくりと取り除き長期保存を可能にしたり、うまみや深い香りを引き出したりと、とてつもない働きをしているのです(※)。
そして「節」には、実は鰹節以外にもサバ、マグロ、アジなど、いろいろな種類の魚を使ったものが存在します。また、魚の背中とお腹の間にある、血管が多く集まる部分「血合い」のあり・なしによっても、味わいや香りが全く変わるのです。
種類によって、さまざまな表情を見せる鰹節。厚削りに、薄削り。血合いありに、血合いなし。鰹節に、鮪節……。KAORUさんの視点から、鰹節の知られざる多面性が浮かび上がってきました。
01,02,03:吟醸納豆ふくふく(株式会社フクダ)
04:十勝の息吹 ひきわり(株式会社 登喜和食品)
05:雪割納豆(株式会社 ゆきんこ)
06,07:明神甘酒の素 生(天野屋)
08:雁木 純米大吟醸 ゆうなぎ 新酒粕(八百新酒造株式会社)
09,11:鮪花(丸与有限会社)
10:花目近(丸与有限会社)
12:宗田節厚削り(丸与有限会社)
〈Dress the Food〉主宰。広告や雑誌、CMなどで幅広く活躍。2018年、NYと東京で開催した個展「Food On A Photograph」で注目を集める。2019年には、「Food On A Model」展を開催。2022年『shichimi magazine』をローンチ、現在vol.2を制作中。
HP:https://www.hanabi-inc.net/people/kaoru
shichimi magazine: https://www.instagram.com/shichimimagazine