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「循環」って、なんだろう? 10人のキーパーソンと考える

「循環」ってなんですか ? そう問われたら、あなたはどう答えますか ?

身近なことから考えてみてもいいかもしれません。例えば、さっき古着屋さんで買った服。誰かに着られた、役割を終えた服は、わたしにとって必要な一着となり、そしてまた別の誰かのもとに手渡され、循環していく。または、もっともっと身近なことでも。体内を流れる血液は、心臓から押し出され、からだ中をめぐっています。はたまた、大きなスケールで考えてみると、地球の公転によって季節が移り変わり、毎年それを繰り返す、ということも循環と言えるでしょう。

日常的によく耳にするけれど、意外と考えたことがない「循環」という言葉。デザイナー、生物学者、写真家、お笑い芸人……10人のこたえを標(しるべ)に、一緒に考えてみませんか。

佐藤オオキさんの写真

デザイナー
大阪・関西万博日本館
総合プロデューサー/総合デザイナー

佐藤オオキ

デザイナーとして、アイデアを生み出すこと自体がひとつの「循環」だと思っています。

アイデアは天から突発的に降ってくるものではありません。日々、同じ服を着て、同じコースを散歩し、同じコーヒーを同じ場所で飲む。そうした単調なルーティンを通じて、日常の中の微差のようなものを発見し、そこからアイデアが生成されていく。

それは、異なる性質や周期の「循環」をそれぞれ個別に意識しながら、それらを柔らかく重ね合わせていく作業とも呼べるかもしれません。

色部義昭さんの写真

アートディレクター/グラフィックデザイナー

色部義昭

人間は誰もが循環の環(わ)の営みの中にいます。

しかし、自分がいる一部分は見えていても、その先に続く円全体を一人の人間が見通すことはとても難しいことです。

だからこそ今までは、壊れたときや役目を終えたときのことを想像しないでつくられるものがほとんどだったのだと思います。

形あるものもないものも、連綿とつながり、循環の環を成している。その円一周を表現するのが日本館の意義だと思っています。

吉田多麻希さんの写真

写真家

吉田多麻希

目の前に横たわるのは、ほぼ骨と皮になり、かろうじて形を認識できる熊の死骸。腐った肉をほとんど食べ尽くした大量のウジが、川のごとく、死骸からどこかへ移動しようとしている。夏のある日、海岸の岩陰で見た光景を、私は写真に撮った。

生きて、その地のものを摂取し、排泄し、死ぬ。その死をまた別の生が取り込み、排泄し、死ぬ。

延々と繰り返されてきた生と死のプロセスは、生態系が持続可能なバランスを保つための根本的なメカニズム。

現代日本において私たちの多くは、死ぬと焼かれ、墓に入る。自然界のサイクルから外れてしまっている。

人間の生活様式の変化がこの純粋な循環に与える影響は? 自然の中で目の当たりにする光景は、いつも私にその問いを投げかけてくる。

伊藤光平さんの写真

株式会社BIOTA 代表取締役

伊藤光平

微生物は自然環境や私たちの体内、都市の中など、あらゆる場所に生息し、「さまざまな物質を分解して他の生物に栄養を循環させる」営みをしています。生態系における「分解者」というユニークな役割を担っているのです。

近年、さまざまな製品や素材のアップサイクルなど、人間社会の中のみで資源が移動することが循環だと捉えられがちですが、土に還るように捨てることで微生物に分解してもらい、他の生き物につながる循環を構築することが生態系を拡張するようなトリガーにもなりうるはずです。

本当の意味での「循環」とは、人間社会の中だけではなく地球に住む生き物全体を巻き込んだ物質の移動。

それは、人間が正しく循環させる「捨て方」のセンスともいえるものを獲得した際に訪れるのではないでしょうか。

金子恵治さんの写真

クリエイティブディレクター/バイヤー

金子恵治

なぜバイヤーという仕事をしているのか、改めて考えてみると、世界中を旅しながら日々なにかを発見することが喜びだからだと思います。

古いものから新しいものまで、さまざまなものに出会い買い付けてきましたが、それは服を通して歴史や情報などを世界中から集め、伝えていくということ。

ものを媒介するバイヤーという存在はある意味、循環的な存在と言えるかもしれません。

ファッションの世界では、トレンドは切っても切り離せないもの。ただ自分自身の根底には、タイムレスなものを選ぶという美学がずっと流れています。丁寧にリペアして使い続けたいと思うものや、また誰かに手渡したいと思うもの、そういった“朽ち果てるまで”使ってもらえるようなものに宿る普遍的な美しさを、ずっと探究していきたいのです。

渡辺潤平さんの写真

コピーライター

渡辺潤平

決して抗うことのできない、そして乱してはならない、途方もなく強大で深遠な力のこと。

福岡伸一さんの写真

生物学者/大阪・関西万博シグネチャーパビリオン「いのち動的平衡館」プロデューサー

福岡伸一

「動的平衡」とは、絶えず分解と合成を繰り返しつつ、秩序を再構築している生命のあり方であり、エントロピー増大の法則という宇宙の大原則に対して、生命が抗う唯一の方法です。

生命のミクロな単位である細胞レベルでは、細胞膜もタンパク質もDNAも常時、動的平衡の状態にあります。細胞が集合してできている私たちの個体も、摂食と排泄、異化と同化を行う動的平衡によって生命を維持します。生態系というマクロな視点から見ると、地球全体もまた大きな動的平衡の系であるといえます。そこでは炭素や水などの原子や分子、エネルギー、情報が絶えず離合集散を繰り返しながら循環しています。

生命現象は、その結節点としてこの循環を駆動しています。結節点が多ければ多いほど、循環のネットワークも強靭なものになります。

地球環境の動的平衡を支えるためにこそ生物の多様性が必要である所以もここにあります。

魚豊さんの写真

漫画家

魚豊

敬愛するニーチェの「永劫回帰」を、飲み込めずにいました。“輪廻転生”的なループは、決断や結末を先送りにする姿勢に至ってしまうのではないかと感じていたからです。

しかしあるとき、「環(わ)を循(めぐ)る」という行為は、円に対しベクトルを持つことであり、それは意志を持つことに等しく、つまり“始まり”を持つことだと気付いたのです。

周回するごとに円周は濃くなり、回帰する生活は、単なる虚しい反復を超え、ラディカルな肯定の意思となる。そしてそれは、“結末”から目を逸らすわけではなく、むしろ終わりを迎えてこそ完成し、その完成をもって、始められ、繰り返されるのです。

なぜその環が必要なのか。その繰り返しが、日常が、きっと自信になるからです。

小松美羽さんの写真

現代アーティスト

小松美羽

いかなる能力で秀でようとも、互いに優劣をつけて命の重さを身勝手に測ろうとも、私たちの生命は等しく、宇宙を構築する一部だと思います。そして、大いなる宇宙も破壊と再生を繰り返す「循環」において、調和を保つための調律が常に行われているようにも感じます。私たちは無数で途方もないとさえ感じてしまう星々と無関係ではなく、インドラの網のように繋がっているのではないでしょうか。

生命の光のエネルギーの「循環」は、私たちに大調和をもたらします。そこに差別はなく、命が平等に審判される世界があるのだと感じます。

私たちが肉体を捨て魂の輝きだけが唯一となったとき、闇を照らす存在でありたいと強く願っています。そして多くの人々の魂が成長していくことを祈り、手を合わせるのです。

滝沢秀一さんの写真

お笑い芸人/ごみ清掃員

滝沢秀一

ごみを回収していると、簡単に買えるけれど捨てにくいものがあることに気付く。土、モバイルバッテリーなどのリチウムイオン電池……手にしているものがいつかはごみになるということを想像してみてほしい。どのように捨てるか、本当に必要かなどを考えれば、行動が変わる。

いままで人類が歩んできた歴史の中で「足りないから、欲しいから」が先立った結果、僕らと次の世代が苦しい状況に追い込まれている。

僕らの世代に課せられたことは、捨てるときを想像して行動すること。循環とは「出口」を考えることだ。