History
【日本館HISTORY -後編-】世界とつながる。世界に伝える。日本発の未来に向けたメッセージ
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写真:Alamy/アフロ
前編では国内で開催された1970年の大阪万博、2005年の愛知万博の日本館を振り返りました。後編では21世紀に海外で開催された万博にフォーカス。日本館でどのような最新技術が展示されたのか、また来場者を楽しませる仕掛けにはどのようなものがあったのかなど、2025年の大阪・関西万博につながる「パビリオンの進化」に迫ります。
海外出展でも多くの人を惹きつけた日本のやさしいおもてなし
2005年の愛知万博以降も、日本は海外で開催された万国博覧会に出展。日本が誇る省エネ関連技術や独自の食文化をはじめ、ゲストを迎えるおもてなしの精神が多くの来場者に高い評価を受け、人気パビリオンになりました。
2010年 上海国際博覧会

名称:2010年上海国際博覧会
テーマ:より良い都市、より良い生活
会場:中華人民共和国上海市
会期:2010年5月1日〜10月31日
会場面積:328ha
参加国等:190カ国、56国際機関
入場者数:7,308万4,400人(史上最多)
中国で初めて開催した国際博覧会は「よりよい都市、よりよい生活」がテーマ。万博史上最多の国・国際機関が参加し、会場面積も過去最大となりました。驚くべきは入場者数の多さ!6,400万人あまりだった1970年の大阪万博を抜き、総入場者数は7,308万人に。1日あたりの入場者が100万人を超える日もあったと記録されています。
その中で、紫色のビニールの膜で覆われ、3本の角のようなものが突き出ている楕円形の日本館は不思議な存在感をはなっていました。名称は中国国内での一般公募により選ばれた「紫蚕島(日本語の通称:かいこじま)」。角を含む6カ所から光・水・風を取り入れられる構造となっており、「建物そのものが生命体のように呼吸する」ことで消費エネルギーを削減する仕組みになっています。愛知万博に続き、日本が誇る環境・省エネ関連技術が数多くとり入れられたのです。

館内では「こころの和、わざの和」をテーマに、環境問題などの解決に向けて技術と人がうまく調和する大切さを発信。近未来を体感できる100%日本独自の最新技術は多くの来場者の関心を集めました。とくに高齢化社会で活躍が期待される介護・医療・家事のサポートを行うパートナーロボットが、二足歩行やバイオリンの弦を押さえて弓を弾くデモンストレーションは話題を呼びました。中国でよく知られている曲を演奏する姿に大人も子どもも親近感を持ち「バイバイ」と手を振ってお別れをする来場者も多かったとか。
他にも人々のジェスチャーで操作することでさまざまな生活空間をつくり出すリビングの壁と一体化した未来のテレビ「ライフウォール」、人が踏むことにより電気が発生する「発電する床」、窓ガラスに透明で極薄の太陽電池を貼り付けた「発電窓」、相手の笑顔を自動的に検知してシャッターを切る「ワンダーカメラ」など世界初公開の技術を展示。また日中の研究者が協力して絶滅から再生した鳥・トキを中心とした物語も上映されました。日本館はトップクラスの人気を誇り、入場者数は併設のイベント会場の利用者も含め541万人を超えました。
2015年 ミラノ国際博覧会

名称:2015年ミラノ国際博覧会
テーマ:地球に食糧を、生命にエネルギーを
会場:イタリア共和国ミラノ市郊外
会期:2015年5月1日〜10月31日
会場面積:110ha
参加国等:140カ国以上、69国際機関
入場者数:約2,150万人
2015年の万博では「食の持続可能性」に光が当たり、世界で初めての「食」の万博になりました。日本館が掲げたテーマは「Harmonious Diversity -共存する多様性-」。日本の農林水産業や食を取り巻く取り組み、2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」などの食・食文化に詰め込まれた知恵と技を、未来社会のヒントとして発信しました。
日本館は法隆寺など日本の伝統木材建築に用いられている「めり込み作用」と現代技術を融合させ、立体木格子を実現。釘をほとんど使わずに組み立てた立体木格子の壁面は、最長部分が高さ12m、幅130mもあり、訪れる人を圧倒する外観でした。ファサードには鏡開きに使われる「菰樽(こもだる)」に47都道府県の県花・県のイメージカラーをあしらったディスプレイが設置され、撮影スポットとして親しまれました。

館内では日本で古来大切にされてきた自然への感謝、先人たちの知恵や技、四季を感じられる旬へのこだわり、もてなしの所作・作法などを伝えるため“食を巡る旅の体験”を展開。あるゾーンでは、食の原点となる田畑や野山、海の風景を最新のプロジェクションマッピング技術で表現し、来場者の動きに応じてその景色が変わる様子を展示。またあるゾーンでは巨大な映像の瀧から流れるさまざまな日本食をスマートフォンに取り込み、食文化の多様性を知ることができる仕掛けを設けるなど、デジタルとアートを組み合わせた表現が話題となりました。
ミラノ万博では日本館の「自然と技術の『調和』」が高く評価され、博覧会国際事務局が主催するパビリオンプライズの展示デザイン部門で金賞を受賞。これは登録博覧会において日本館として史上初の快挙です。
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●コラム:食で伝える日本の魅力
日本館の人気の理由は「レストラン」にもあった !?
各国の万博で不動の人気を誇るのが、日本館のレストラン。日本食は美味しさだけでなく彩りや盛り付けの美しさにもこだわっている料理が多く、目、耳、鼻など五感を使って楽しめるのが人気の理由です。これまでの万博ではほとんどの日本館にレストランがあり、多くの海外の人々から高く評価されています。

ミラノ万博では和牛、米、そばなど日本産商材にこだわったフードコートを展開。天ぷらや丼なども人気を博し、連日超満員となりました。

ミラノ万博では他にも本格的な京懐石を提供した美濃吉が出店。技、空間、おもてなしなど日本の食の魅力を発信しました。
ドバイ万博では日本でも大人気のスシローが出店。ハラル食材のみで考案されたメニューを日本の店舗で親しまれている味のまま再現。人気メニューはサーモン、うなぎ、まぐろ、ロールすし、ラーメン、抹茶アイスなど。
2020年 ドバイ国際博覧会

名称:2020年ドバイ国際博覧会
テーマ:心をつなぎ、未来を創る
会場:アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ
会期:2021年10月1日〜2022年3月31日
会場面積:483ha
参加国等:192カ国、14国際機関、22パートナー企業
入場者数:約2,410万人
当初2020年に予定されていたドバイ万博は、新型コロナウイルス感染症の影響により予定から約1年遅れて開幕。新しい万博のあり方として、万博をオンラインで体験できるバーチャルEXPOも同時に行われました。各館の展示をバーチャルツアーで見学したり、イベントをライブストリーミングで鑑賞したりと世界中のどこからでも楽しむことができ、会期中に世界中から2億を超えるアクセスがありました。
日本館では「Where ideas meet アイディアの出会い」をテーマにしていました。建物のファサードは中東のアラベスク模様と日本の麻の葉模様を組み合わせて立体化したデザインに。シルクロードで交わる日本とのつながり・交差を表現しています。折り紙をイメージさせる日除けが建物を包み込み、時間によって形を変える影が来場者の目を楽しませました。
館内は日本のさまざまなコンテンツを最新のテクノロジーで魅せる空間として構成されました。「多様な出会いから新たなアイディアが生まれ、交流し、未来がより良い方向に変わりゆく」ことを、来場者が一連の物語の中に入り込みながら体感できる“参加型”の展示でした。

来場者は一人ひとり観覧用スマートフォンを持って内部へ。館内にはいたるところにセンサーが設置されており、スマートフォンとセンサーの連動によって個々の位置を把握し、来場者それぞれの行動によって演出がインタラクティブに変化する仕掛けです。館内は5つのシーンで構成され、シーン1、2では日本の原風景や文化を映像で表現。とくにシーン2では展示空間内に充満した超微細ミストによってスクリーンに投影された映像が空中に浮かび上がり、幻想的な空間が体感できると話題になりました。シーン3では日本が自然や文化から着想を得たプロダクトを日本らしいミニチュアで紹介し、シーン4でグローバル社会における課題を紐解きました。最後にシーン5では館内での体験によって変化するクライマックスシーンを投影。その日、その時に居合わせた来場者とともに発見と感動を分かち合える場となりました。

動画:アフロ
おわりに
日本館HISTORY前編・後編でご紹介した万博以外も合わせると、日本はこれまで国内外で開催された30の万博に出展しています。時代に合わせて日本の文化・技術の粋を集め、世界とつながり、世界に伝えることでその存在感をアピールしてきました。
大阪・関西万博の日本館は、「いのちと、いのちの、あいだに。」がテーマ。
館内を巡る中で、日本文化の特徴の1つである「循環」に触れ、さらには私たち一人ひとりも「循環」の一部であることに気づく機会を提供しています。日本が世界に先駆けて実用化しつつある環境技術や世界中の人々に愛されているキャラクターも登場 !
これまでの「万博と日本」の歴史に思いを馳せながら、2025年の新たな発見も楽しんでみてはいかがでしょうか。
取材協力:独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
文:おき ゆきこ